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第95回アカデミー賞(2023年)「エブエブ」に決定!映画館に与える影響は?

日本時間の2023年3月13日、第95回アカデミー賞授賞式が行われ、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(略称:エブエブ)」が作品賞を含む最多7部門を受賞しました。ハリソン・フォードとキー・ホイ・クァンの抱擁は、多くの映画ファンに感動を与えたのではないでしょうか。

本記事では、アカデミー賞が映画館に与える影響、過去のアカデミー賞の国内興行収入、近年の国内ヒット映画の共通点について解説しています。

アカデミー賞受賞作品とヒットの関連性は?

受賞後、各劇場は「アカデミー賞受賞作品!大ヒット公開中!」と宣伝に力を入れることが一般的です。今回の「エブエブ」は、日本で3月3日に公開されました。アカデミー賞の11部門にノミネートしていたことから、受賞前からある程度宣伝に力を入れていた印象があります。

しかし、アカデミー賞受賞作品だからといって、大ヒットするとは限らないのが現実です。アカデミー賞の発表を受け、各劇場は今週末のタイムスケジュールを作っていくと思われますが、おそらく1日の上映回数が1回、多くて2回増える程度です。

上映期間も多少伸びるにせよそれほど長期上映される見通しは立っていないでしょう。映画館の上映期間は、全てが客足次第であるといったシビアな現実があります。

そもそも「エブエブ?アカデミー賞作品賞を受賞した映画?じゃあ、映画館に観にいこう」と考える人は、それほど多くありません。アカデミー賞に対し、意識を向けている人自体が少ないのが現実です。わざわざ映画館にまで行こうと考えるのは、一部の映画ファンにすぎません。

ここで、コロナ禍以前のアカデミー賞作品賞受賞作品と、国内興行収入を表にまとめました。

公開アカデミー賞作品賞国内興行収入
2018年ギレルモ・デル・トロ監督「シェイプ・オブ・ウォーター」8.9億円
2019年公開のピーター・ファレリー監督「グリーンブック」21.5億円
2020年ポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」47.4億円

この表からは、アカデミー賞が国内興行収入に影響を与えているとは言い難い結果となりました。

大ヒットの条件1:ファミリー層向け

毎年3月に新作を公開する「ドラえもん」の興行収入について比較してみましょう。2018年「映画ドラえもん のび太の宝島」は53.7億円、2019年「映画ドラえもん のび太の月面探査記」は50.2億円と、どちらも50億円を突破しています。子どもの頃に映画館に行き、大人になった今は、自分の子どもを連れて観に行くという人も多いことでしょう。

ファミリー層に人気の高いドラえもんと同様、名探偵コナンも大ヒット映画です。2018年の「名探偵コナン ゼロの執行人」は興行収入91億円越えのメガヒットを叩き出しています。また、2022年4月公開の『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』は94億円を突破するなど、高い人気を誇っています。

つまり、大ヒットする映画=ファミリー向けの映画であると言えます。

大ヒットの条件2:世間を巻き込みリピーターを生むこと

もちろん映画ファンはファミリー層だけではありません。もうひとつの大ヒットの条件は、普段映画館に足を運ばない客層を巻き込むような話題作であること、さらにリピーターを生む映画であることです。

2022年から2023年を例に挙げますと、トム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」が挙げられます。公開3日間で興行収入11億円を突破するロケットスタートが評判になり、現在の興行収入は136.5億円を突破しました。

また、1986年に公開された1作目の「トップガン」を観ていた世代が、何度も映画館に足を運ぶリピーター現象が起きたことも記憶に新しいはずです。SNS上では「#追いトップガン」のハッシュタグが広まり、1作目を観ていない若い世代にも広がりを見せたことが、大ヒットの理由だと考えられます。

2022年12月に公開された井上雄彦監督の「THE FIRST SLAM DUNK」も、公開2日で興行収入12億円を突破しました。2023年3月には、興行収入119億円を突破し、この勢いはまだまだ衰えそうにありません。

トップガン同様、原作コミックスを読んでいた世代や、1993~96年に放送されていたアニメを観ていた世代が劇場に足を運んだこと、アニメ版との声優交代や原作者が監督を務めたことなど、話題に事欠かず、映画ファン以外も注目を集めていたことが理由として挙げられます。

また、アニメを知らない若い世代も、話題や口コミ、SNSでの広がりから、映画館に足を運んだこと、何度でも見る価値があるとリピーターが増えたことも大きな理由と言えるでしょう。

世間を巻き込むことで生まれる大ヒット映画の存在は、映画館にとってドル箱です。こういった作品があるからこそ、映画館として存在し続けることが可能なのです。

「エブエブ」は?大ヒットする?

2023年アカデミー賞作品賞受賞の「エブエブ」に、話を戻します。エブエブは、ファミリー向けの映画とは言いづらいです。リピーターを生むかどうかについては、個々の好みによるところではあるものの、前述した「トップガン マーヴェリック」「THE FIRST SLAM DUNK」に比べると、万人受けするとは言い難いでしょう。

現段階では、爆発的な大ヒット作品になるとは考えにくいですが、SNS社会の今、どこから人気に火がつくかは、未知数な部分もあります。今後、どうなっていくか、しばらく観察を続けようと思います。

文:100shimo

90年代後半よりライブハウスやクラブ、映画館などで勤務。音楽や映画などポップカルチャーの現場第一をモットーに執筆。